OpenAIは、Personality and custom instructions now apply to all chatsのリリースで、ChatGPTのユーザー体験を大幅に向上させる2つの重要なアップデートを発表しました。今回の変更により、AIとの対話がより一貫性を持ち、柔軟になります。本記事では、これらの新機能の詳細と活用法を、初心者からエンジニアまで分かりやすく解説します。
1. パーソナライズ設定が全てのチャットに即時反映!

今回のアップデートで最も注目すべき変更点の一つが、パーソナライズ設定の適用範囲拡大です。これまで「カスタム指示(Custom Instructions)」などで設定した内容は、新しく開始するチャットにしか反映されませんでした。しかし、これからは既存の会話を含む全てのチャットに即時適用されます。
初心者向け解説
「カスタム指示」とは、ChatGPTにあなたの好みや仕事内容、応答スタイルなどをあらかじめ教えておく機能です。例えば、「私は高校の先生です。専門用語は避けて、生徒に説明するように話してください」と設定しておくと、ChatGPTはその役割を演じてくれます。これまでは、この設定を変更しても過去の会話には反映されませんでしたが、これからは設定を変えた瞬間に、昔の会話の続きからでも新しいキャラクターで話してくれるようになります。これにより、どの会話を開いても一貫したあなた専用のAIアシスタントとして機能します。
技術的詳細
この変更は、ChatGPTのセッション管理と状態(ステート)管理アーキテクチャの進化を示唆しています。従来は、各チャットセッションが開始される際にユーザーのパーソナライズ設定を一度だけ読み込み、セッション内で固定していたと考えられます。今回のアップデートにより、設定変更をトリガーとするイベント駆動型のアーキテクチャが採用されたと推測されます。ユーザーが設定を更新すると、そのイベントが全アクティブセッションに通知(ブロードキャスト)され、各セッションのコンテキストが動的に更新される仕組みです。これにより、リアルタイムでの一貫性維持が可能になりました。
機能比較表
| 項目 | これまで (Before) | 今回のアップデート (After) |
|---|---|---|
| 設定の適用範囲 | 新規の会話のみ | 全ての会話(新規・既存) |
| 反映タイミング | 新しいチャット開始時 | 設定変更後、即時 |
| ユーザー体験 | 設定変更のたびに新しいチャットを始める必要があった | どのチャットでも一貫した応答が得られる |
| 利便性 | 低い | 高い |
具体的な活用例・メリット
- 継続的なプロジェクト: 長期間にわたるプロジェクトについて複数のチャットで議論している際、途中で報告書のフォーマットに関する指示(例:「箇条書きは『・』ではなく『-』を使う」)をカスタム指示に追加すると、全ての関連チャットで即座にそのフォーマットが適用され、手作業での修正が不要になります。
- 役割の切り替え: 仕事用のフォーマルな応答設定と、プライベート用のカジュアルな応答設定を切り替える際、どの会話でもすぐにその役割に応じた応答を得られるようになり、思考のスイッチングがスムーズになります。
2. 長文生成を中断&修正!「途中修正機能」で対話がより柔軟に
もう一つの画期的な機能が、長時間実行されるクエリを途中で中断し、追加情報を提供して軌道修正できる機能です。これにより、AIとの対話がよりインタラクティブで効率的になります。
初心者向け解説
AIに長いレポートや物語を書かせている途中で、「あ、大事なことを伝え忘れた!」と思った経験はありませんか?従来は、一度生成を止めて、最初からやり直す必要がありました。しかし新機能では、AIが文章を書いている最中に「ちょっと待って!この条件も追加して」と割り込むことができます。AIは作業を中断し、新しいお願いを考慮して続きを書いてくれるため、時間と労力を大幅に節約できます。
技術的詳細
この機能は、単なる生成停止(Stop)とは異なり、進行中の推論プロセスの状態を保存し、新たなユーザー入力を既存のコンテキストに統合して処理を再開する高度な技術です。これは「コンテキスト・インジェクション(Context Injection)」や「動的プロンプティング(Dynamic Prompting)」と呼ばれる概念に近いものです。バックエンドでは、生成タスクがチェックポイントを設けながら実行され、ユーザーからの割り込み(interrupt)要求があると、直近のチェックポイントから状態を復元し、追加されたプロンプトを反映した新しいコンテキストで推論を再開する仕組みになっていると考えられます。
※ コンテキスト(Context)とは: ここでは「文脈」や「会話の流れ」を指します。AIが応答を生成するために考慮する、それまでの対話履歴や背景情報全体のことです。
機能フローの可視化 (Mermaid.js)
ユーザーが本棚を探す例で、この機能のフローを見てみましょう。
sequenceDiagram
participant User as ユーザー
participant ChatGPT as ChatGPT
User->>ChatGPT: 「部屋に合う完璧な本棚を探して」と指示
ChatGPT->>ChatGPT: 調査と提案の生成を開始 (長時間処理)
Note right of ChatGPT: 様々なデザインや素材を調査中...
User->>User: 「壁の幅が72インチで、穴あけ不可」という制約を思い出す
User->>ChatGPT: サイドバーの「Update」をクリックし、追加情報を送信
ChatGPT->>ChatGPT: 進行中の生成を一時停止し、新情報でコンテキストを更新
Note right of ChatGPT: 条件(幅72", 穴あけ不可)を考慮して再検索
ChatGPT->>User: 更新された条件に合う本棚の提案を再開
具体的な活用例・メリット
- ソフトウェア開発: 長いコードを生成させている途中で、使用するライブラリのバージョンや特定のコーディング規約を思い出した際に、その情報を追加して手戻りを防ぐ。
- コンテンツ作成: ブログ記事の執筆を依頼した後で、特定のキーワード(SEO対策)を含めるように指示を追加する。
- データ分析: 大規模なデータセットの分析レポートを作成中に、分析の切り口(例:「年代別だけでなく、地域別のクロス集計も追加して」)を途中で変更する。
影響と展望
今回のアップデートは、対話型AIの進化における重要な一歩です。
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業界への影響: パーソナライズ機能の強化は、AIが汎用的なツールから「個人に最適化されたパートナー」へと進化する流れを加速させます。また、クエリの中断・修正機能は、AIとの対話を「一問一答」から「共同作業(コラボレーション)」へと昇華させるものであり、競合他社も同様のインタラクティブな機能の開発を迫られるでしょう。
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今後の期待: 将来的には、ユーザーが明示的にカスタム指示を設定しなくても、過去の全会話履歴からAIがユーザーの好みや文体を自律的に学習し、適応するようになるかもしれません。さらに、中断・修正機能は、コーディングからデバッグ、テスト、デプロイまでの一連の複雑なタスクを、AIと対話しながらシームレスに実行する未来のワークフローの基盤となる可能性を秘めています。
なお、今回のリリースには、インド市場向けの「ChatGPT Go」が12ヶ月間無料になるプロモーションも含まれており、OpenAIのグローバルなユーザーベース拡大への強い意欲がうかがえます。(詳細は公式ヘルプページをご確認ください)
まとめ
今回のChatGPTアップデートの要点を以下にまとめます。
- 一貫性の向上: パーソナライズ設定(カスタム指示)が、新規・既存を問わず全てのチャットに即時反映されるようになりました。
- 柔軟性の飛躍的向上: 長時間かかる処理を途中で中断し、追加の指示を与えて軌道修正できる「途中修正機能」が追加されました。
- 効率的な対話の実現: やり直しや再入力の手間が大幅に削減され、よりスムーズで効率的なAIとの共同作業が可能になりました。
- ユーザー体験の進化: これまで以上にユーザー一人ひとりに寄り添い、文脈を理解する、真のパーソナルアシスタントへと進化を遂げました。

