harness2(ハーネス・ツー)は、Googleの研究チームが公開した、AIエージェント(人の代わりに作業を進めるAI)向けの仕組みです。AI本体は作り直さず、AIが働くときの「段取りや道具立て」を、仕事ごとに自動で見直します。公開されたばかりで、開発者の間で名前をよく見かけるようになりました。
ひとことで言うと、harness2とは何ですか?
harness2は、AIエージェントが働く環境を、AI自身に自動で改良させるためのオープンソースの枠組みです。
※オープンソースとは: プログラムの中身が公開されていて、決められた条件のもとで誰でも使える形のことです。
たとえるなら、同じ新入社員でも、渡されるマニュアルや使える道具、相談できる先輩が違えば、仕事の出来は変わります。harness2は、その「マニュアルと道具立て」を、仕事のたびに見直して書き換える係のようなものです。社員本人(AIモデル)を研修し直すわけではありません。
AIの世界では、このモデルの周りの仕組みをハーネス(harness)と呼びます。もとは馬具の意味です。GitHubの説明では、指示文、道具、記憶、手順書、仕事の割り振りなど、モデルがエージェントとして動くための周辺システムをまとめて指す言葉とされています。そのハーネスを良くしていく作業が「ハーネシング」です。
これまでと何が変わるのか
- AIを乗り換えなくても、周りの仕組みを直すだけで成績が上がる例が報告された
- 正解が用意されていない新しい仕事でも、改善を試みられる
- 仕事ごとに得た教訓を「経験メモ」としてためて、次の仕事に活かす
harness2とは?誰が作った何ですか?
harness2は、GitHub上の「google-research」という組織のもとで公開されているリポジトリ(プログラムの置き場)です。正式な題名は「Harness²: Recursive Agent Harnessing for an Open World」で、論文として引用するための書式もREADMEに載っています。
作った組織の呼び方は、資料によって少し違います。READMEが置かれているのはGoogle Researchの名前の組織です。一方、解説記事のi-scoopとINSIDEは、Google Cloud AI Researchの成果と書いています。i-scoopは、ノースウェスタン大学も論文の所属として挙げています。
ChatGPTなどとの違い
ChatGPTのように、人が話しかけて答えをもらうサービスではありません。harness2は、AIエージェントを動かす側の人が、その「働き方」を良くするために使う道具です。
言い換えると、ChatGPTが「社員」だとすれば、harness2は「社員の仕事の進め方を見直す仕組み」です。社員の頭脳そのものには触りません。
なぜ話題になっているのですか?
理由は大きく3つあります。
1つ目は、モデルを作り直さずに成績が上がったと報告されたことです。READMEによると、GLM-5とGemini 3.5 Flashという2つのAIモデルで、標準の設定より成績が上がりました。1回の改善ステップで、WorkBuddy-Benchは最大11.5点、JobBenchは最大4.5点、法務系のLABでは部分的な合格率が11.8ポイント上がっています。
※ベンチマークとは: AIの実力を測るための共通テストのことです。
2つ目は、安いとされるモデルが強いモデルを上回った点です。i-scoopは、設定を改善したオープンなモデルGLM-5が、標準設定のGemini 3.5 Flashより、WorkBuddy-Benchで高い点を取ったと伝えています。
3つ目は、公開の場です。GitHubのgoogle-research/harness2と、Product Huntの「Harness²」が、いずれも話題の一覧に入っています。
数字を読むときの注意
INSIDEは、台湾の媒体Startup Fortuneの報道を引いて、これらの数字は作者が自分で報告したものだと伝えています。Startup Fortuneは、論文やコードと照らして確かめることはできなかったとしています。
また、再帰(改善を重ねること)を加えると、さらに3.9点、4.2点、6.7点上がったと同記事は書いています。ただし増え方は少しずつ小さくなり、積み上がり続けるわけではないそうです。点数の意味は各テストの採点方式によるため、資料の範囲では細かくは確認できません。
仕組みと主な特徴は?
1. AIの「周辺の8つの部品」を書き換えられる
何ができるか: AIの働き方を、8つの部品に分けて直せます。
どう実現しているか: READMEによると、編集できるのは次の8つです。
- システムプロンプト(AIへの基本の指示文)
- ガードレール(失敗を防ぐ決まりや確認)
- 記憶
- ツールの使い方の指針
- サブエージェント(仕事を任せる助手役)
- スキル(繰り返しの仕事の手順書)
- スクリプト(補助のプログラム)
- プラグイン
これらで、AIに渡す情報の組み立て、道具の使い方、仕事の割り振りが決まります。
2. 正解なしで改善する「提案→試す→まとめる」
何ができるか: 正解データがない仕事でも、AIの働き方を良くする方向を探れます。
どう実現しているか: 1つの仕事ごとに、Propose(提案)、Probe(試す)、Compose(まとめる)という3段階を踏みます。まず、改善案を作ります。次に、同じ仕事を案ごとにやり直し、動きの違いを見比べます。最後に、効果がありそうな修正だけを合わせて、新しい設定を作ります。
i-scoopによると、案は2つ作られます。1つは計画や道具の使い方といった一般的な弱点向け、もう1つはその分野に固有の知識や制約向けです。書き換えを担う「編集役」のモデルは、実験ではClaude Opus 4.8だったと、i-scoopとINSIDEが伝えています。READMEの本文では、この点は確認できません。
なお、見比べは判断の手がかりであり、出力が正しい証拠ではないと、i-scoopは著者の慎重な姿勢として紹介しています。
3. 計算を増やすほど、さらに良くできる
何ができるか: 時間や計算力を多くかけられるなら、改善の回数や幅を増やせます。
どう実現しているか: 「k」という数字で、改善にかける量を決めます。READMEでは、2つのやり方が紹介されています。
| やり方 | 中身 |
|---|---|
| 並列(parallel) | 一般向けとその分野向けの案をk個ずつ試し、k個のまとめを作る。幅広く探す |
| 逐次(sequential) | 改善した設定を引き継ぎ、k回続けて磨く。深く掘り下げる |
i-scoopによると、並列では最後に、匿名にした成果物の中から良いものを選ぶ役が入ります。
4. 仕事ごとの教訓をためて、次に活かす
何ができるか: 過去の仕事で効いた工夫と、その理由を覚えておけます。
どう実現しているか: 名前の「2乗」は、この2つ目の改善の輪を指します。各仕事の後に、採用された設定と、証拠のある教訓を「改善用ハーネス」に残します。i-scoopによれば、記録にはEXPERIENCE.mdというファイルが付き、どんな状況で効いたか、教訓、その証拠が書かれます。証拠が弱いときは、何も保存しません。
新しい仕事は、前の仕事の設定を丸ごと引き継がず、いつも基本の設定から始まります。そのうえで、必要なら蓄えた経験を参照します。1つの仕事向けの工夫が、次の仕事の邪魔にならないようにするためだと、i-scoopは説明しています。
5. 対応しているテストと実行基盤
何ができるか: 3種類のテストで、改善の効果を確かめられます。
どう実現しているか: READMEによると、対応は次のとおりです。
| テスト | 内容 |
|---|---|
| JobBench | 専門的な仕事 |
| LAB | 法律の仕事 |
| WorkBuddy-Bench | 事務作業、ウェブ、コード |
AIを動かす実行側は、既定のOpenCodeのほか、Codexにも対応しています。
自分に関係ありますか? 向いている人・向いていない人
結論から言うと、企画・営業・マーケ・学生の方が、直接使うものではありません。
セットアップには、開発用のツールとコマンド操作が必要です。AIエージェントを自社のサービスや研究で動かしている開発者、AIの働き方を改善したい研究者が主な対象です。
向いている人は、次のような方です。
- AIエージェントの設定や評価に日常的に関わっている
- モデルを変えずに成績を上げる方法を探している
- 研究として、改善の仕組みそのものを調べたい
向いていないのは、「チャットで気軽に使えるアプリ」を探している方です。
普段使うサービスの中に、harness2が入るという発表は、今回の資料にはありません。ただ、考え方は「AIの働く環境を自動で整える」というものです。そうした発想が、将来サービスの裏側で使われる可能性はありますが、これは編集部の見立てであり、公表された予定ではありません。
触ってみたい人向け:使い方・始め方は?
ここからは実際に触ってみたい人向けです。読み飛ばしても全体像は分かります。
前提は、READMEによると、Linux、Python 3.12、uv(Pythonの環境を整える道具)です。リポジトリを入手したフォルダで、次のコマンドを実行します。
uv venv --python 3.12 .venv
source .venv/bin/activate
uv pip install -e '.[render]'
harness2-demo --output runs/demo --k 2
このデモは、決まった動きをする編集役と本物のPython実行で、2つの改善モードを試すものです。モデルの認証情報は要りません。
AIモデルを使うテストを動かす場合は、さらにNode.js 20以上とGoogle Cloud CLIが必要です。LABにはPandocとPoppler、WorkBuddy-BenchにはDockerも要ります。.env.exampleを.envにコピーし、Vertex AIのプロジェクトとモデルIDを書き込む手順です。詳しくはリポジトリのdocs/SETUP.mdにあります。
次の例は、LABを1問だけ動かし、採点と報告まで進めるものです。
harness2-setup lab
harness2-check --bench lab
harness2 --bench lab --k 1 --mode parallel --only-domains antitrust-competition --max-tasks 1
harness2-judge --bench lab --k 1 --mode parallel
harness2-report --bench lab --k 1 --mode parallel
モデルを使う実行にはAPI費用がかかると、READMEが明記しています。まずは少ない問題数で試すのが安全です。--dry-runを付けると、モデルを呼ばずに対象の問題だけ確認できます。採点と報告は、改善を実行したときと同じ条件(テスト、実行基盤、問題の範囲、k、モード、乱数の種)で行う必要があります。結果はruns/に保存され、同じコマンドを繰り返すと再開できます。
注意点と、現時点で分かっていないことは?
公式サポートの製品ではありません。 READMEは「Googleが公式にサポートする製品ではない」と書いています。
成績は作者の自己報告です。 INSIDEが伝えるとおり、Startup Fortuneは、論文やコードとの照合ができていないとしています。第三者による再現検証は、今回の資料の範囲では確認できません。
ネットワークとサンドボックスに注意が必要です。 READMEによると、実行役のネット接続は制限されておらず、Codexはサンドボックス(外に影響を出さない隔離環境)を切った状態で動きます。公開テストの採点基準がネットで見つかる場合もあるため、評価の前にネットワーク制限の設定が必要だと、READMEは求めています。
費用は使い方しだいです。 ソフト自体はApache 2.0ライセンスです。ただ、third_party/のコードやテスト、データセットは、それぞれ元のライセンスのままです。モデルのAPI費用の具体的な金額は、資料からは確認できません。
一般の業務でどれだけ効くかも不明です。 確認されているのは、上記3つのテストでの結果です。実際の現場の仕事で同じ効果が出るかどうかは、資料からは分かりません。
公開日にも食い違いの余地があります。 INSIDEはStartup Fortuneの報道として、10月9日の公開と書いています。READMEには公開日の記載がありません。
まとめ
- harness2は、AIの頭脳を変えず、AIが働く環境を自動で見直すGoogleの研究チームのオープンソースです
- 仕事ごとに、案を出し、試し、良い部分だけをまとめます。正解データは要りません
- 得た教訓をためて、次の仕事に活かす2段構えが、名前の「2乗」の由来です
- 成績の向上は作者の報告で、第三者の確認は資料にありません
- 直接使うのは開発者や研究者で、一般の人はまずニュースとして押さえれば十分です
よくある質問
プログラミングができなくても使えますか?
資料を見る限り、一般向けのアプリではありません。Linux、Python 3.12、uvという開発ツールを用意し、コマンドを打って動かす前提です。直接使うのは開発者や研究者が中心で、非エンジニアの方はニュースとして押さえる程度で十分です。
無料で試せますか?
ソフト自体はApache 2.0ライセンスで公開されています。付属のデモは、モデルの認証情報なしで動くと説明されています。一方、AIモデルを使うベンチマーク実行にはAPI費用がかかります。具体的な金額は資料からは確認できません。
ChatGPTのようなチャットサービスですか?
違います。harness2は、AIエージェントが働くときの周辺の仕組み(指示文、記憶、手順書など)を自動で書き換える研究用の枠組みです。話しかけて使うアプリではなく、開発者がAIの運用を改善するための道具に近い位置づけです。
AIモデルを学習し直す技術ですか?
いいえ。資料では、モデルの重み(学習で決まる中身)は固定したままだと説明されています。変えるのは、指示文、ガードレール、記憶、道具の使い方の指針、サブエージェント、技能、スクリプト、プラグインの8つの部品です。
Googleの公式製品として使えますか?
READMEには「Googleが公式にサポートする製品ではない」と書かれています。Googleの研究チームが公開したオープンソースの成果物であり、サポート窓口や保証を期待するものではない点に注意してください。