Contrastive Language Models (CLM)は、AIが「次に何をするか」「この問い合わせはどの部署か」といった判断を、文章を書かずに素早く下すために作られた新しい種類のAIモデルです。2026年9月に最初のモデル「CLM-8B」が公開され、開発者の間で話題になっています。
ひとことで言うと何ですか?
Contrastive Language Models (CLM)は、状況を見て「次にどの行動を選ぶか」を素早く決めるための、判断専用のAIモデルです。
身近なものにたとえると、作文の試験と選択式テストの違いに似ています。ChatGPTのようなAIは、白紙に文章を書く作文タイプです。CLMは、並んだ選択肢から状況に一番合うものに丸をつける選択式タイプです。
書かない分だけ返事は速くなります。そのかわり、選択肢はこちらで用意する必要があります。
※System One(システム・ワン)とは: 人間の思考を「速く直感的な働き」と「ゆっくり考え抜く働き」に分ける心理学者カーネマンの考え方から借りた言葉です。CLMは前者、つまり直感的に素早く決める側を担当するモデルだという位置づけです(資料3)。
これまでと何が変わるのか
- 判断の待ち時間が短くなる: 資料3によると、ゲームの課題での1回の判断は、TypeSafe社のモデル「Jev」が約150ミリ秒(0.15秒、まばたき1回ほど)、CLM-8Bが約16.5ミリ秒でした。
- 答えが確率つきで返る: 「経理が93.9%、技術が6.1%」のように返るため、自信が低いときだけ人に回す、といった使い方がしやすくなります(資料1の例)。
- 自分の環境で動かせる形で公開された: 資料3は、重みが公開され、GPU1枚で動かせると伝えています。
Contrastive Language Models (CLM)とは何ですか?
GitHubの「Contrastive-LM/CLM」で公開されているモデルの種類、およびその最初のモデルを指します。資料1は、CLMを「状態(いまの状況)と行動を結びつける学習」で訓練した新しいクラスのSystem Oneモデルだと説明しています。
最初に公開されたモデルがCLM-8Bです。資料3は、開発元をStanford大学とNvidiaとし、研究者のJacky Kwok氏が率いたと伝えています。公開日は9月23日です。資料1の読み取れる範囲には、組織名や研究者名の記載がありません。
比較対象のJevは、TypeSafe社が作った判断専用のモデルです。資料2によると、状況(コメントやプロフィールなど)と質問を渡すと、確率つきの答えが返ります。文章は生成しません。
CLM-8Bは、このJevと互換のあるAPI(※ソフト同士がやり取りするための窓口)の裏側で動く形で配布されています。
ChatGPTなどとの違い
| 観点 | 文章を作るAI(ChatGPTなど) | CLM |
|---|---|---|
| 得意なこと | 文章を書く、説明する | 候補から選ぶ、順位をつける |
| 返事の形 | 文章 | 確率つきの選択結果 |
| 使うときの準備 | 質問文を工夫して頼む | 状況と選択肢を渡す |
これは資料に基づく大まかな比較です。資料2は、これまで多くの現場で、文章を作るAIに「はい/いいえ」を答えさせ、その返事を機械で読み取っていたと述べています。この使い方にはムダが多いという指摘です。
なぜ話題になっているのですか?
理由は主に3つあります。
1つ目は速さです。資料1は、パソコンの操作、ゲーム、道具(ツール)選びの課題でJevと同程度の成績を出しながら、最大9倍低い待ち時間だったと述べています。資料3は、ゲーム課題「T-Rex」でのJevの約149.8ミリ秒に対し、CLM-8Bが約16.5ミリ秒だったと伝えています。
2つ目は、公開のされ方です。資料3は、これが公開された最初のCLMで、Apache 2.0ライセンスの重み公開だと報じています。
3つ目は、プログラミング支援での成績です。AIが書いた複数の解答案から一番良いものを選ぶ「検証役」にCLMを使い、少し追加で学習させたところ、2つの試験で高い正解率が出たと資料1は述べています。
- Terminal-Bench 2.1: 87.6%
- DeepSWE: 81.6%
※ベンチマークとは: AIの実力を測る共通の試験のことです。
盛り上がりの様子では、GitHubのリポジトリが話題の指標で3000、DEV Communityの紹介記事が15という数字でした。この記事はJevの話が中心で、CLMそのものの記事ではありません。System One型という考え方に関心が集まっていることの目安として見てください。
どんな仕組みで速いのですか?
状況と行動を別々に数字にして、使い回す
何ができるかというと、同じ準備作業を何度もやり直さずに済みます。
どう実現しているかというと、「状況」と「行動」を別々に数字の並びへ変え、その結果を保存して再利用します。資料1によると、この分離があるため、学習も運用も安く速くなります。資料1は、行動の候補が多いとき(WikiRacingという課題)や、同じ行動を別の状況で何度も使うとき(T-Rexゲーム)に、速さの差が特に大きいと述べています。
近い組み合わせを探して選ぶ
何ができるかというと、状況と候補を渡すだけで、一番合う候補を選べます。
どう実現しているかというと、「対照学習」という訓練をしています。
※対照学習とは: 正しい組み合わせを近づけ、間違った組み合わせを遠ざける学習法です。神経衰弱で「同じ絵柄のカードは近く、違うカードは遠く」と覚え込ませるイメージです。
資料1によれば、状況の側と行動の側に別々の「数字に変える部品」を作ります。実際に取られた正しい行動を状況に近づけ、ほかの行動を遠ざけて訓練します。使うときは、状況に一番近い数字を持つ候補を選びます。
3段階で訓練されている
CLM-8Bは3つの段階で訓練されています(資料1、資料3)。
- 事前の訓練: Nvidiaの質問と答えのペア6000万組
- 中間の訓練: 紛らわしい間違い候補を人工的に作った3000万件
- 仕上げの訓練: AIエージェントが実際に動いた記録100万件
土台のAIは固定し、小さな部品だけ学ぶ
何ができるかというと、訓練にかかる計算の負担を抑えられます。
どう実現しているかというと、土台には既存のAI「Qwen3-8B」を使い、その中身は変えません。学習するのは、約2000万個のつまみ(パラメータ)を持つ小さな部品だけです。この部品は状況側と行動側に1つずつあります。
質問は3つの形式で出せる
何ができるかというと、判断をそのままプログラムの分岐に使えます。
どう実現しているかというと、質問を3つの型に絞っています。資料1のコードでは、「はい/いいえ(Noul)」「選択肢から選ぶ(Choice)」「段階で評価する(Score)」の3つです。これはJevと同じ型だと、資料1と資料2から読み取れます。このほか、候補を並べ替えて順位をつける機能もあります。
自分に関係ありますか?
プログラミングをしない人が、CLMを直接使う場面はほとんどなさそうです。資料にある使い方は、サーバーを立てて呼び出す開発者向けのものです。
関係してくるとすれば、普段使うサービスの裏側です。資料1の例では、お客さんからの「請求が二重になっているのに電話がつながらない」という文面を渡し、次の3つを同時に判断させています。
- 急ぎか
- どの部署が担当すべきか
- どのくらい怒っているか
なお、Jevについての資料2では、投稿サイトの運営が、スパム疑いの投稿の一次チェックや、タグの提案に使っている例が紹介されています。これはJevの例で、CLMの導入事例ではありません。
向いている人
- AIエージェントや業務システムを作っている開発者
- 判断の回数が多く、待ち時間や費用を抑えたい人
- 自分のGPU環境でモデルを動かしたい人
向いていない人
- 文章の作成、要約、会話をAIに任せたい人
- GPUを用意できない人、環境構築をしたくない人
ちなみに、手元のパソコンで動く判断特化AIについては、資料2が「Laya」という別のオープンソースの取り組みに触れています。当サイトにもLayaとは?Jevとの違い・仕組み・使い方をやさしく解説|手元のPCで動く判断特化AIモデルがあります。
触ってみたい人はどうすればいいですか?
ここからは実際に触ってみたい人向けです。読み飛ばしても全体像は分かります。
資料1にある前提は、Pythonのパッケージ管理(pip)と、AIを動かすツールvLLMです。例では、GPU(RTX 4090が1枚)を使っています。
まず、パッケージを入れます。
pip install contrastive-lm
次に、土台のモデルと、CLMのサーバーを起動します。初回は、75MBの参照用データが自動でダウンロードされます。
vllm serve Qwen/Qwen3-8B --served-model-name qwen3-8b --runner pooling --max-model-len 2048 --port 8090 &
clm-serve
Pythonから質問する例です(資料1の例を短くしています)。
from clm import CLMClient, Choice, Noul
client = CLMClient()
r = client.system_one(
state='Customer: my invoice was charged twice and nobody answers the phone!',
questions={
'urgency': Noul(instructions='Is this urgent?'),
'department': Choice(instructions='Which team should handle this?',
criteria={'billing': 'Charges, invoices, refunds',
'technical': 'Bugs and outages'}),
},
)
print(r.answers['department'].choice)
print(r.answers['department'].probabilities)
資料1の出力例では、担当は「billing」で、確率は約0.94でした。サーバーなしで候補に順位をつけたい場合は、Engineのrankが使えます。
サーバーを起動すると、ブラウザで使える画面(Playground)がhttp://localhost:8700/で開きます。状況と質問を入力して、答えの確率を見られます。画面を使いたくないときはclm-serve --no-uiで起動します。
初期設定では、2048トークン(※AIが文章を数える単位)を超える状況の入力は切り捨てられます。長い入力を扱うには上限を引き上げる必要があり、その分GPUのメモリが多く要ります。自分のデータで追加学習する方法は、資料1がリンクしているFINETUNING.mdに書かれています。
注意点・まだ分からないことは?
- 数字の出どころ: 速さや正解率は、資料1(プロジェクト側)と資料3(報道)に出ています。第三者が再現したという情報は、資料の範囲では確認できません。
- 試験の規模: 検証役の成績は、DeepSWEの38課題とTerminal-Bench 2.1の30課題という、限られた数での評価です(資料1)。
- 「最高水準」の条件: 資料1は、少し追加で学習させた検証役として最高水準だと述べています。資料3は「このサイズのモデルとして最高水準」と書いており、追加学習の条件には触れていません。
- ライセンス: Apache 2.0で重みが公開されると述べているのは資料3だけです。資料1の読み取れる範囲では、ライセンスの記載を確認できませんでした。利用前にリポジトリで確認してください。
- Jevの検証役としての結果: 資料1は、長い作業の検証役としてJevが十分に働かず、1回で解く場合の成績を下回ったと述べています。CLMの追加学習後は、Jevより4.1〜5.7倍速かったとも書かれています。
- 料金・利用できる窓口: 料金や、公式が用意する有料サービスについては、資料に記載がありません。
- 今後の予定: 画像なども扱える後継の「CLM-35B」が、2026年10月上旬の公開を目標に開発中と資料3は伝えています。資料1の読み取れる範囲には記載がありません。
- 向いていないこと: 文章を書く力を求める用途には、このモデルは使えません。
まとめ
- CLMは、文章を書かず、候補から最適な行動を選ぶ判断専用のAIの種類です。
- 最初のモデルCLM-8Bは、Jevと同程度の性能を最大約9倍の速さで出したと報告されています。
- 普通の人が直接使うものではなく、サービスの裏側で素早い判断を支える部品として使われる想定です。
- 開発者は、pipとvLLMで自分のGPU環境に立てて試せます。
- 数字は資料内の報告が中心です。ライセンスや料金は、利用前に公式の情報を確認してください。
よくある質問
プログラミングができなくても使えますか?
資料にある使い方は、パッケージを入れてGPU付きの環境でサーバーを立てる開発者向けの手順です。プログラミングをしない人が直接使う想定ではありません。普段使うサービスの裏側で使われる部品、と考えるのが近いです。
無料で試せますか?
コードとモデルは公開されており、資料には料金の記載がありません。ただし自分で動かすにはGPUを積んだ環境が必要で、その費用は別にかかります。公式の有料サービスやライセンスの詳細は、資料の範囲では確認できません。
ChatGPTの代わりに使えますか?
用途が違います。CLMは文章を書くのではなく、状況と選択肢を渡して「どれが最も合うか」を確率つきで返す判断専用のモデルです。質問に文章で答えたり、文書を作ったりする用途には向きません。
Jevとは何が違うのですか?
Jevは、資料によるとTypeSafe社の独自モデルです。CLM-8Bは同種のモデルで、資料は複数のタスクでJevと同程度の性能を最大9倍低い待ち時間で出したと述べています。CLM-8Bは重みが公開されています。