最近、海外の技術系コミュニティを中心に「Whiteboard(ホワイトボード)」というAIツールが注目を集めています。プログラムを自動で書くAIが登場するなかで、AIと人間が一緒に「設計図」を見ながら相談するための新しい作業場所として登場したソフトウェアです。
この記事では、「Whiteboardという名前を見かけたけれど、結局何ができるツールなの?」「自分にも関係があるの?」という疑問を持つ方に向けて、専門用語をできるだけ使わずに分かりやすく解説します。
ひとことで言うとどういうツール?
Whiteboardを一言で説明すると、「人間とAIが一緒に大きなホワイトボード(キャンバス)を囲んで、ソフトウェアの設計図を描きながら相談するためのデスクトップアプリ」です。
身近なたとえで言うと、「建築士(AI)と施主(あなた)が、机の上に家の設計図や見取り図を広げて、どこをどう直すか話し合うための作業机」のようなものです。これまでAIとは文字チャットだけで「ここを直して」「直しました」とやり取りしていましたが、Whiteboardを使うと、AIが「こういう構造にします」と図を描いて示してくれます。
これまでと何が変わるのか、主な変化は次の3点です。
- 文字だけの指示から、図を使った直感的な相談へ: AIが作業内容を図面(シーケンス図や関連図など)にして見せてくれるため、全体像が一目で分かります。
- 図をクリックするだけで中身を確認できる: 画面上の図面を押すと、その図に対応するプログラムの場所に直接ジャンプできます。
- AIが自分で下した判断の理由が分かる: AIがどんな意図でプログラムを作ったのか、判断の足跡をたどることができます。
Whiteboardとは?どんなツールなのか
Whiteboardは、米国のスタートアップ支援組織「Y Combinator(YC W26)」の支援を受けるチームが開発したオープンソースのデスクトップアプリです(公式の詳細はGitHubのWhiteboardリポジトリで公開されています)。
Windows、macOS、Linuxに対応しており、パソコンにインストールして使用します。
ChatGPTなどの一般的なAIチャットとの違い
ChatGPTなどの一般的なAIは、画面のチャット欄に質問を入力すると、文章やプログラムのコードをそのまま返してくれます。
しかし、本格的なソフトウェアを作るとき、人間は「コードを1行ずつ読む」前に「全体の構造やデータの流れ」を把握したいと考えます。従来のチャット画面では、AIが書いた長いプログラムの全体像を直感的に掴むのが難しいという問題がありました。
Whiteboardは、AIに対して「アプリの中に図を描くための道具(SDK)」を渡します。これにより、AIが人間に対して「今回はこういう流れでデータを処理します」とキャンバス上に図を描いて説明できるようになります。
なお、開発者向けのエディタ環境については、別のアプローチとして高速性を重視したものもあります。たとえばエディタ自体の性能や仕組みについてはRuneとは?Go言語製の高速IDEの特徴・仕組み・料金を解説でも解説していますが、Whiteboardは「プログラムを書く速さ」よりも「AIとの設計と意思疎通」に焦点を当てている点が大きく異なります。
他の「ホワイトボード」ツールとの混同に注意
「ホワイトボード」という言葉は一般的なため、名前が似ている他のサービスと混同しないよう注意が必要です。
| ツール名 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| Whiteboard(本記事の対象) | ソフトウェア開発者 | AIと人間がコードや設計図を共有するオープンソースIDE |
| Alongside | 一般の学習者 | Webページを読みながらAIと手書き図解で学ぶ学習ツール |
| Microsoft Whiteboard | ビジネス・教育一般 | 手書きメモや付箋を使う汎用のオンライン共有ボード |
本記事で解説しているWhiteboardは、あくまで「ソフトウェアの設計(アーキテクチャ)をAIと共同で行うための専門ツール」です。
なぜいま話題になっているのか?
Whiteboardが注目されている理由は、AIによるプログラミングが進化するにつれて、開発者の悩みが「コードを書くこと」から「AIが書いたコードを確認・設計すること」に変わってきたからです。
海外の技術投稿サイト「Hacker News」では、公開直後に400件以上の反響が集まりました。多くのエンジニアが「AIにコードを丸投げすると、全体がどう作られたのか分からなくなる」という共通の課題を抱えていたためです。
これまでの開発では、AIが出力した大量のテキスト変更を一画面ずつ見比べる必要がありました。Whiteboardは、変更点をわかりやすい図や要約にして見せてくれるため、人間が「AIが何をやったのか」を短時間で正確に理解できる手段として期待されています。
Whiteboardの主な特徴と仕組み
Whiteboardには、AIとの共同作業をスムーズにするためのユニークな仕組みがいくつか備わっています。
1. 設計図から実際のプログラムへ直接飛べる
一般的な作図ツールで描いた図は、プログラムそのものとは連動していません。しかしWhiteboardでは、AIが描いたシーケンス図(処理の順番を示す図)やデータ構造の図をクリックすると、その図の元になっている実際のプログラム箇所へ瞬時に移動できます。
この機能の土台には、多くの開発者が日常的に使っているエディタ「VS Code(Code – OSS)」の仕組みが組み込まれており、使い慣れたキー操作や入力支援機能がそのまま使えます。
2. 重要な変更だけを目立たせる差分表示
プログラムの変更前と変更後を見比べる作業(差分確認)は、余計な情報が多いと疲れてしまいます。Whiteboardでは、Rust(プログラミング言語の一種)で作られた仕組みを採用しており、プログラムの構造を理解したうえで差分を表示します。
たとえば、新しく追加された巨大なプログラムを大まかなあらすじ(擬似コード)に要約してくれたり、テスト用のコードや解説文章などの細かな変更を自動で折りたたんで隠してくれたりします。これにより、人間は本当に大事な「設計の変更点」だけに集中できます。
3. AIが自分で下した決断を振り返るログ機能
AIがひとりで作業を進めると、「なぜその作り方を選んだのか」が分からなくなることがあります。
Whiteboardには、AIが自分の作業履歴や考えた道筋をキャンバス上にリンク付きで記録するツールが用意されています。これにより、人間側が出した要望がどのように解釈され、AIがどんな判断を下してプログラムを組み立てたのかを後から視覚的に追いかけることができます。
自分に関係ある?向いている人と向いていない人
Whiteboardは非常に尖ったツールです。すべての人に必要なわけではありません。
向いている人
- AIエージェントを使ってアプリを作っている開発者: Claude Codeなどのツールを使って日常的に開発しており、変更箇所の確認に手間取っている人
- チームで設計の意図を共有したいエンジニア: AIが作ったコードの構造をチームメンバーに分かりやすく図解して説明したい人
向いていない人(今は関係がない人)
- プログラミングを全くしない人: 一般的な文書作成や図解作成ツールとしては作られていません。
- アイデア出しの手書きボードを探している人: 会議のメモやブレインストーミングを行いたい場合は、一般的なオンラインホワイトボードアプリの方が適しています。
非エンジニアの方にとっては、「普段使っているサービスの開発現場で、裏側でエンジニアがAIと相談するために使われ始めている新しい道具」と理解しておくのが正確です。
使い方・始め方(触ってみたい人向け)
ここからは、実際に自分のパソコンでWhiteboardを動かしてみたいエンジニア向けの手順です。技術的な内容を含みますので、概要だけ知りたい方は読み飛ばして構いません。
前提条件と推奨モデル
Whiteboardを利用するには、以下の準備が必要です。
- 対応OS: macOS、Windows、Linux
- 連携可能なコーディングエージェント: Claude Code、Codexなど
公式のGitHubドキュメントによると、知能・費用・速度のバランスの観点から、GPT-6 SolやClaude Opus 5.5といった高性能なモデルと組み合わせた際に最も効果を発揮すると案内されています。
基本の利用手順
- 公式サイト(dev.fast/install)からアプリをダウンロードして起動します。
- 初期画面から、普段使っているコーディングエージェント(Claude Codeなど)を接続します。
- エージェントに対して、現在のブランチのレビューや設計図の作成を指示し、結果をWhiteboardで開きます。
たとえば、APIの仕様変更を相談したいときは、以下のようにAIへ指示を出します。
hey, this stack of commits is set up so i can get an [api] to do [objective]
i'd like to see:
- proposed api
- examples
- motivations for this (if available to you in context/in the repo)
and then we can dive into implementation + explaining how things worked.
もし画面上に気に入らない図や説明があれば、その部分をコピーしてAIに渡すことで、AIがキャンバス上に図を描き直してくれます。
注意点と現時点で分かっていないこと
実際に使う上では、まだ初期段階のツールであることに起因するいくつかの制約があります。
1. アプリ内で直接ファイルを編集することはできない
Whiteboardは現在「設計と確認(レビュー)」を行うためのビューアとして設計されています。そのため、アプリの中から直接ファイルを書き換えることはできません。コードを編集したい場合は通常のエディタで行う必要があります。
2. 複数のリポジトリをまたぐ確認は苦手
ひとつの画面で複数のリポジトリ(プロジェクトの保管場所)をまたいでファイルを閲覧する機能は、現時点では十分に対応していません。
3. 共有した後のリアルタイム更新はない
画面上の共有ボタンを使うことで他の端末にレビュー内容を送ることができますが、共有した後に自分の手元で行った更新は相手側に自動反映されません。更新を見せたいときは再度共有操作を行う必要があります。
4. プライバシーと料金について
Whiteboard自体はMITライセンスで提供されており、ローカル環境で動作します(ライセンス条項はGitHubのLICENSEで確認できます)。
公式ドキュメントによると、送信される匿名テレメトリ(利用状況データ)にユーザーのコード、差分、テキスト、プロンプト、AIの出力結果などは含まれず、設定からいつでも無効化できます。将来的にチーム向けのクラウド版が提供される予定ですが、手元のPCで動かすセルフホスト環境は今後も無償で維持される方針です。
まとめ
Whiteboardについて押さえておくべきポイントは以下の通りです。
- AIと人間が一緒に設計するためのキャンバス型アプリ: 文字チャットだけでなく、図面を使ってソフトウェアの構造を視覚的に話し合えます。
- 図面とプログラムが連動している: 画面上の図をクリックするだけで、対応するプログラムの場所へ直接移動できます。
- オープンソースで無料公開中: 自分のパソコンにインストールして利用でき、手元の環境で安全に動作します。
- 直接のコード編集は非対応: あくまで設計やコード確認を行うための専用ツールであり、これからの機能拡張が期待されています。
よくある質問
プログラミングができない人でも使えますか?
Whiteboardは開発チームやエンジニアがソフトウェアの設計・確認をするための専門ツールです。操作にはClaude CodeやCodexなどのコーディング用AIツールの設定が必要になるため、プログラミングをしない人が単独で日常業務に使うツールではありません。
無料で使えますか?料金はかかりますか?
Whiteboard自体はMITライセンスのオープンソースとして無償で提供されており、自分のパソコンにダウンロードして使えます。将来的にチーム向けのホスト型(クラウド型)サービスが計画されていますが、自分のパソコン上で動かす機能は今後も利用できると公表されています。ただし、連携するAIモデル(ClaudeやGPTなど)の利用料は別途必要になる場合があります。
Microsoftの「Microsoft Whiteboard」とは違うものですか?
全く別のツールです。Microsoft Whiteboardは一般的なオンライン会議や授業で使われる手書きボードですが、今回話題になっているWhiteboardはAIと一緒にソフトウェアの設計図やコードの変更点を確認するために作られた開発者向けアプリです。
Whiteboardの中でコードを直接書き換えることはできますか?
現時点の機能では、Whiteboardの中でファイルを直接編集することはできません。現在は設計図の確認やコード変更のレビュー、AIの判断履歴の確認に特化しており、コードの編集を行いたい場合は課題(Issue)として報告するよう案内されています。



