n8nの最新バージョンが2024年7月25日にリリースされました。このアップデートは、自動化ワークフローの柔軟性とセキュリティをさらに高めるための重要な変更を含んでいます。特に、システム監視に不可欠なPrometheusメトリクスに関する変更や、エンタープライズレベルのセキュリティを強化するAzure Key Vaultのサポート追加は、多くのユーザーにとって注目すべきポイントです。本記事では、初心者の方にもエンジニアの方にも分かりやすく、これらの主要な変更点とその影響について詳しく解説していきます。
主要な変更点

1. Prometheusメトリクス名の変更(Breaking Change)
概要・初心者向け説明:
Prometheus(プロメテウス)は、システムやアプリケーションの稼働状況を監視するための人気のツールです。n8nは、このPrometheusを使って自身の内部状態を外部に公開し、ユーザーがn8nのパフォーマンスを監視できるようにしています。今回のアップデートでは、この監視データ(メトリクス)の名前の付け方が一部変更されました。具体的には、デフォルトで「n8n_」という接頭辞(プレフィックス)が必ず付くように修正されたため、既存の監視設定を使っている場合は調整が必要になる可能性があります。
技術的詳細:
今回のリリースでは、N8N_METRICS_INCLUDE_DEFAULT_METRICS および N8N_METRICS_INCLUDE_API_ENDPOINTS 環境変数を通じて有効化されるPrometheusメトリクスにおいて、デフォルトの n8n_ 接頭辞が適切に含まれるように修正されました。以前のバージョンでこれらのカテゴリのメトリクスを使用しており、かつ非空のプレフィックスを設定していた場合、既存の監視クエリやダッシュボードを新しいプレフィックス付きの名前に合わせて更新する必要があります。これにより、メトリクスの一貫性が向上し、より正確な監視が可能になります。
活用例・メリット:
n8nを本番環境で運用している企業では、PrometheusとGrafana(グラファナ)を組み合わせてn8nのワークフロー実行数、エラー率、処理時間などをリアルタイムで監視しています。今回の変更により、もし既存の監視設定でn8n_プレフィックスを考慮していなかった場合、監視アラートが正しく機能しなくなる可能性があります。しかし、修正を行うことで、より統一された命名規則の下で安定した監視が可能となり、システム全体の信頼性向上に寄与します。
graph TD
A[n8n アプリ] --> B[メトリクス生成]
B --> C[Prometheus 収集]
C --> D[監視ダッシュボード]
2. Azure Key Vaultサポートの追加
概要・初心者向け説明:
n8nは、データベースの接続情報やAPIキーなど、外部サービスと連携するために重要な「秘密情報(シークレット)」を安全に管理する必要があります。これまではAWS Secrets ManagerやHashiCorp Vaultなどのサービスに対応していましたが、今回のアップデートでMicrosoft Azure(アジュール)が提供する「Azure Key Vault(アジュールキーボルト)」が新たにサポートされました。Azure Key Vaultは、クラウド上で秘密鍵、証明書、シークレットなどを安全に保管・管理するためのサービスです。これにより、Azure環境を利用している企業は、より一貫したセキュリティ管理体制を構築できるようになります。
※Azure Key Vaultとは:
Microsoft Azureが提供するクラウドサービスで、暗号化キー、パスワード、証明書、その他のシークレットを安全に保管し、アクセスを厳密に制御するためのものです。アプリケーションがこれらの秘密情報に直接アクセスすることなく、Key Vaultを通じて安全に利用できるようになります。
技術的詳細:
このリリースにより、n8nは外部シークレットストアとしてAzure Key Vaultをサポートするようになりました。これは、既存のAWS Secrets Manager、Infisical、HashiCorp Vaultに続く追加であり、現在Google Secrets Managerのサポートも開発中です。外部シークレットストア機能は、エンタープライズライセンスでのみ利用可能です。これにより、組織は機密性の高い資格情報をn8nの内部データベースに保存する代わりに、専用のセキュリティサービスで一元管理し、セキュリティ体制を強化できます。
活用例・メリット:
例えば、n8nでAzure上の複数のサービス(Azure SQL Database, Azure Functions, Azure OpenAIなど)と連携するワークフローを構築する際、それぞれの認証情報をAzure Key Vaultに一元的に保管し、n8nから安全に参照することが可能になります。これにより、セキュリティリスクを低減し、コンプライアンス要件を満たしやすくなります。また、シークレットのローテーションやアクセス制御もKey Vault側で管理できるため、運用負荷の軽減にも繋がります。
graph TD
A[n8n ワークフロー] --> B[Azure Key Vault]
B --> C[API キー取得]
C --> D[外部サービス連携]
3. ノードの強化と非推奨化
概要・初心者向け説明:
n8nは様々なサービスと連携するための「ノード」と呼ばれる部品を提供しています。今回のアップデートでは、いくつかの既存ノードがより使いやすく、高性能になるように「強化」されました。また、古い技術に基づいた一部のノードは「非推奨」となり、より新しい、高性能な代替ノードへの移行が推奨されています。これは、n8nが常に最新の技術トレンドに対応し、ユーザーに最高の体験を提供しようとしている証拠です。
技術的詳細:
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強化されたノード:
- Pinecone Vector Store: ベクトルデータベース「Pinecone」との連携が強化されました。AIアプリケーションで類似度検索を行う際に、より効率的で安定した操作が可能になります。
- Supabase Vector Store: オープンソースのFirebase代替として人気の「Supabase」のベクトルストア機能との連携が改善されました。RAG(Retrieval Augmented Generation)などのAIワークフローで、よりスムーズなデータ操作が期待できます。
- Send Email: メール送信機能が強化され、より柔軟な設定やエラーハンドリングが可能になったと考えられます。これにより、通知やレポート送信などの自動化がより信頼性の高いものになります。
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非推奨ノード:
- OpenAI Model: 今後は「OpenAI Chat Model」の使用が推奨されます。これは、OpenAIのモデルがチャット形式の対話に最適化されたためです。
- Google Palm Chat Model / Google Palm Model: これらのノードは非推奨となり、代わりに「Google Vertex」または「Gemini」の使用が推奨されます。Googleの最新かつ高性能なAIモデルへの移行を促すものです。
活用例・メリット:
AIを活用したワークフローを構築しているエンジニアにとって、ベクトルストアノードの強化は大きなメリットです。例えば、ユーザーの問い合わせ内容をPineconeやSupabaseで類似検索し、関連ドキュメントを抽出してOpenAI Chat Modelで要約・回答するようなRAGシステムを、より効率的かつ堅牢に構築できるようになります。非推奨ノードについては、最新のAIモデルは機能が豊富で性能も向上しているため、代替ノードへの移行はワークフローの品質向上に直結します。
比較表: 非推奨ノードと代替ノード
| 項目 | 非推奨ノード | 推奨代替ノード | メリット |
|---|---|---|---|
| OpenAI関連 | OpenAI Model | OpenAI Chat Model | 最新のチャット最適化モデル、高性能、多機能 |
| Google AI関連 | Google Palm Chat Model | Google Vertex / Gemini | Googleの最新AIモデル、高精度、多様な機能 |
| Google Palm Model | Google Vertex / Gemini |
4. その他(バグ修正など)
このリリースには、上記以外にも様々な新機能、ノードの機能強化、そしてバグ修正が含まれています。これらの改善は、n8n全体の安定性とユーザーエクスペリエンスの向上に貢献します。
影響と展望 (Impact and Outlook)
今回のn8nのリリースは、特にエンタープライズ領域での利用を強化する内容となっています。Prometheusメトリクスの一貫性向上は、大規模なシステム監視を行う企業にとって運用上の安定性をもたらします。また、Azure Key Vaultのサポートは、Microsoft Azureを主要なクラウドプラットフォームとして利用している組織にとって、セキュリティとコンプライアンスの観点から非常に大きなメリットです。これにより、n8nはより多様な企業環境に適合し、ミッションクリティカルな自動化ワークフローを構築するための信頼性の高い基盤としての地位を固めるでしょう。
AI関連ノードの強化と非推奨化は、n8nが最新のAI技術トレンドに迅速に対応していることを示しています。生成AIの進化は目覚ましく、常に最新のモデルを活用できる環境は、開発者にとって非常に重要です。今後もGoogle Secrets Managerのサポートが予定されており、主要なクラウドプロバイダーのセキュリティサービスとの連携がさらに強化されることで、n8nは企業における自動化とセキュリティの架け橋としての役割を拡大していくことが期待されます。
まとめ (Summary)
- Prometheusメトリクス名の修正: 監視システムを利用しているユーザーは、
n8n_プレフィックスを含む新しいメトリクス名に合わせて設定を更新する必要があります。 - Azure Key Vaultサポート追加: Azureユーザーは、エンタープライズライセンスで秘密情報をKey Vaultに安全に保管・管理できるようになり、セキュリティが大幅に向上します。
- 主要ノードの強化: Pinecone Vector Store、Supabase Vector Store、Send Emailノードが改善され、AIワークフローや通知機能の信頼性が向上しました。
- AI関連ノードの非推奨化: OpenAI ModelやGoogle Palm Modelは非推奨となり、OpenAI Chat Model、Google Vertex、Geminiといった最新のAIモデルへの移行が推奨されます。
- エンタープライズ向け機能強化: 全体として、セキュリティと監視の強化により、n8nの企業利用における信頼性と柔軟性が向上しました。
