2024年10月2日、ノーコード・ローコード自動化ツールn8nの最新バージョン1.62.1がリリースされました。今回のアップデートでは、AIエージェント機能の大幅な強化と既存ノードの機能改善が主要な変更点です。特に、大規模言語モデル(LLM)とビジネスアプリケーションの連携がこれまで以上にスムーズになり、企業におけるAI活用の幅を大きく広げる重要なリリースと言えるでしょう。
主要な変更点

1. AIエージェント機能の強化と$fromAI()プレースホルダーの導入
概要: n8nの「Tools AI Agent」ノードで利用できるノードが追加され、さらに$fromAI()という新しいプレースホルダー関数が導入されました。
初心者向け説明: これまでAIに「〇〇して」と指示しても、AIが使えるツールが限られていました。今回の更新で、n8nにある様々なアプリ連携機能(ノード)をAIがもっと自由に使えるようになります。さらに、AIが自分で考えた情報(例: 「この顧客にはAという商品を提案しよう」)を、そのまま次のツール(例: メール送信ツール)に渡せるようになる機能が追加されました。
技術的詳細: 「Tools AI Agent」ノードに、より多くのn8nノードをツールとして組み込めるようになりました。これにより、AIエージェントが実行できるアクションの範囲が大幅に拡張されます。また、$fromAI()関数は、LLMからの出力を動的にキャプチャし、それを後続のノードやツールにパラメータとして渡すことを可能にします。これは、n8nの既存のプレースホルダー(※プレースホルダーとは: 特定の値を動的に埋め込むための目印や変数のようなもの。例: {{ $json.key }})と同様のメカニズムで動作し、AIエージェントの柔軟性と自律性を飛躍的に向上させます。
活用例・メリット:
* 活用例: 顧客からの問い合わせメールをAIが分析し、その内容に基づいてCRMシステム(例: Salesforce)で顧客情報を更新し、同時にSlackで担当者に通知する、といった一連のプロセスをAIが自律的に実行できます。$fromAI()を使えば、AIがメールから抽出した「顧客名」や「問い合わせ内容」を直接CRM更新ノードに渡せます。
* メリット: LLMをビジネスプロセスに深く統合でき、手動でのデータ転送や判断が不要になります。これにより、業務効率が大幅に向上し、ヒューマンエラーのリスクも低減します。
graph TD
A[ユーザー入力] --> B[AIエージェント]
B --> C[ツール選択]
C --> D[ツール実行]
D --> E[結果出力]
| 項目 | 旧バージョン | 新バージョン (1.62.1) |
|---|---|---|
| AIエージェント利用可能ノード | 限定的 | 大幅に増加 |
| LLMからの動的情報連携 | 手動設定/困難 | $fromAI()で容易 |
| 業務自動化の柔軟性 | 中 | 高 |
2. 主要ノードの機能強化
概要: 既存のいくつかのノードに、利便性を高めるための機能が追加されました。
初心者向け説明: よく使うアプリ連携機能が、より便利に、細かく設定できるようになりました。特に、データベースから数字を扱う際や、ウェブサイトと連携する際のセキュリティが向上しています。
技術的詳細:
* Google BigQuery: 数値型データを文字列としてではなく、整数として直接取得するオプションが追加されました。これにより、後続のデータ処理における型変換の手間が省け、データの正確性が向上します。
* HTTP Request: Sysdigの認証情報(※認証情報とは: 外部サービスに安全に接続するためのIDやパスワードなどの情報)がサポートされました。Sysdig APIとの連携をセキュアかつ容易に行えるようになります。
* Invoice Ninja: getAllリクエストに追加のクエリパラメータが利用可能になりました。これにより、より柔軟なデータ取得が可能になります。
* Question and Answer Chain: カスタムプロンプト(※プロンプトとは: AIに対する指示や質問文)を使用するオプションが追加されました。特定のユースケースに合わせて、AIへの質問形式を細かく調整できるようになり、より精度の高い回答を引き出すことが期待できます。
* ドラッグ&ドロップ挿入の改善: スキーマビュー(※スキーマビューとは: データの構造やノードの設定を視覚的に表示する画面)からのドラッグ&ドロップ挿入が、コード、SQL、HTMLフィールドでも可能になりました。これにより、複雑なスクリプトやテンプレートの作成時における開発者の生産性が向上します。
活用例・メリット:
* 活用例: BigQueryから売上データを取得する際、数値が文字列ではなく整数で直接取得できるため、集計処理がスムーズになります。また、カスタムプロンプトを使えば、社内FAQチャットボットの回答精度を向上させることが可能です。
* メリット: 各ノードの使い勝手が向上し、より複雑なデータ処理や外部サービス連携が簡単になります。開発者はより効率的にワークフローを構築でき、エラーのリスクも低減します。
3. エンタープライズライセンス向け機能の追加
概要: エンタープライズライセンスの顧客向けに、ワークフローの実行データ管理機能が強化されました。
初心者向け説明: 大企業などでn8nを使っている方向けに、ワークフローがどのように動いたか(実行データ)を、もっと分かりやすく管理できる機能が追加されました。特に、重要なデータに目印をつけたり、評価したりできるようになります。
技術的詳細: エンタープライズライセンスを持つユーザーは、実行データ(Execution Data)を評価(rate)、タグ付け(tag)、ハイライト(highlight)できるようになりました。ハイライト機能を利用するには、ワークフロー内にExecution Data Node(またはCodeノード)を追加し、カスタムの実行データを設定する必要があります。これにより、大規模なワークフローのデバッグ、監査、パフォーマンス分析が格段に容易になります。
活用例・メリット:
* 活用例: 複数の部署が利用する複雑な自動化ワークフローにおいて、特定の実行結果が成功したか、失敗したかをタグ付けし、問題のある実行データにハイライトを付けることで、迅速な原因究明と改善が可能になります。
* メリット: ワークフローの運用管理が高度化し、特に大規模なシステムにおいて、実行データの可視性と分析能力が向上します。これにより、システムの安定稼働と継続的な改善をサポートします。
影響と展望
今回のn8nのアップデートは、AIとビジネスプロセスの融合をさらに加速させるものです。特に$fromAI()プレースホルダーの導入は、AIエージェントがより自律的に、かつ柔軟に外部ツールと連携できることを意味し、RPA(※RPAとは: Robotic Process Automationの略で、定型業務をソフトウェアロボットで自動化する技術)の領域にLLMが深く食い込む可能性を示唆しています。
企業は、これまで手動で行っていた判断やデータ連携を含む複雑な業務プロセスを、AIエージェントによってエンドツーエンドで自動化できるようになるでしょう。これにより、顧客対応、マーケティング、データ分析など、多岐にわたる分野で生産性の飛躍的な向上が期待されます。
今後は、AIエージェントが利用できるノードの種類がさらに増え、より高度な推論や判断を伴う業務も自動化の対象となることが予想されます。n8nは、ローコード・ノーコードの強みを活かしつつ、最先端のAI技術をビジネス現場に届ける重要なプラットフォームとしての地位を確立していくでしょう。
まとめ
- n8nバージョン1.62.1が2024年10月2日にリリースされました。
- AIエージェント機能が大幅強化され、
$fromAI()プレースホルダーでLLMからの動的情報連携が可能に。 - Google BigQuery、HTTP Requestなど主要ノードの機能が改善され、使い勝手が向上。
- エンタープライズ向けに実行データの評価、タグ付け、ハイライト機能が追加され、運用管理が高度化。
- AIとビジネスアプリの連携がさらに容易になり、業務自動化の可能性が拡大しました。
