2025年7月14日、自動化ワークフローツールn8nが最新バージョンをリリースしました。今回のアップデートは、AI機能の大幅な強化、管理者向けユーザー管理機能の改善、そしてセキュリティ機構の導入を特徴としており、初心者からエンジニアまで、あらゆるユーザーの自動化とAI連携の可能性を大きく広げるものです。
主要な変更点

1. AIチャットのストリーミング配信でUX向上
概要: n8nのチャットインターフェースで、AIが生成するテキストがリアルタイムでワードバイワード(一語ずつ)表示される「ストリーミング」機能が導入されました。これにより、AIの応答を待つ時間がなくなり、よりスムーズで自然なチャット体験が可能になります。
初心者向け説明: これまでAIからの返答は、全ての内容が生成されてから一気に表示されていました。しかし、今回の更新で、まるで人が話すようにAIが言葉を紡ぎ出す様子をリアルタイムで見られるようになります。これにより、AIとの会話がより快適で、待つストレスが格段に減ります。
技術的詳細: ストリーミング機能は、パブリックチャットビュー(ホスト型または埋め込み型)で利用できるほか、Webhook経由でカスタムアプリケーションでも活用可能です。設定は以下のノードの詳細ビューで行います。
– Chat Triggerノード: 「Options」>「Add Field」>「Response Mode」>「Streaming」
– Webhookノード: 「Respond」>「Streaming」
– AI Agentノード: 「Add option」>「Enable streaming」
活用例・メリット:
– カスタマーサポートチャットボット: 顧客はAIの回答を待つことなく、リアルタイムで情報を得られるため、顧客満足度が向上します。
– リアルタイム情報提供システム: ユーザーはAIが生成する最新情報を逐次確認でき、より迅速な意思決定を支援します。
– 体感的な応答速度の向上: 全体的な処理時間は変わらなくても、ユーザーはAIがすぐに反応しているように感じるため、ユーザー体験が大幅に改善されます。
graph TD
A[ユーザー入力] --> B[n8n Chat Trigger]
B --> C[AIモデル処理]
C --> D[ストリーミング応答]
D --> E[ユーザー画面表示]
2. 管理者向けユーザーリストの改善
概要: インスタンスのユーザーリストが新しいテーブルレイアウトになり、管理者が必要な情報をより簡単に確認できるよう、詳細情報が追加されました。これにより、アクセス管理が格段に容易になります。
初心者向け説明: 会社やチームでn8nを使っている場合、誰がどのプロジェクトを使っているか、セキュリティ設定(二段階認証など)はどうか、最後にいつ活動したかなどを管理者が一目で確認できるようになりました。これにより、ユーザーの管理がよりスムーズになります。
技術的詳細: 新しいユーザーリストでは、以下の機能が追加・強化されています。
– 合計ユーザー数表示: インスタンス全体のユーザー数を把握できます。
– フィルタリング機能: 名前やメールアドレスでユーザーを検索できます。
– プロジェクトアクセス表示: 各ユーザーがどのプロジェクトにアクセスできるかを確認できます。
– 2FA(二段階認証)状況: ユーザーが2FAを有効にしているかどうかが表示され、ソートも可能です。
– 最終アクティブ日時: 各ユーザーの最終活動日時を確認できます。
活用例・メリット:
– アクセス監査の効率化: 誰がどのリソースにアクセスしているかを簡単に監査し、セキュリティポリシーの遵守を確認できます。
– 非アクティブアカウントの特定: 長期間活動のないアカウントを特定し、リソースの最適化やセキュリティリスクの低減に役立てられます。
– セキュリティ強化: 2FAの導入状況を把握し、セキュリティ対策の推進に貢献します。
比較表: ユーザーリスト機能
| 項目 | 旧バージョン | 新バージョン (2025-07-14) |
|—|—|—|
| レイアウト | シンプルなリスト | 新しいテーブルレイアウト |
| フィルタリング | 限定的 | 名前、メールで可能 |
| プロジェクトアクセス | 確認困難 | 各ユーザーのアクセスプロジェクト表示 |
| 2FA状況 | 非表示 | 有効/無効を表示、ソート可能 |
| 最終アクティブ | 非表示 | 日時を表示 |
3. HTMLレスポンスのiframe自動ラッピングによるセキュリティ強化
概要: ワークフローがWebhookに対してHTMLレスポンスを送信する場合、n8nが自動的にそのコンテンツを<iframe>でラップするようになりました。これは、インスタンスユーザーを保護するための重要なセキュリティメカニズムです。
初心者向け説明: n8nを使ってウェブページの一部を表示する際、もしそのページに悪意のあるコードが含まれていても、n8nが自動的に「安全な枠(iframe)」の中に閉じ込めて表示するようになりました。これにより、あなたのn8n環境が外部からの攻撃から守られます。
技術的詳細: この変更にはいくつかの影響があります。
– サンドボックス化されたレンダリング: HTMLは親ドキュメントに直接ではなく、サンドボックス化された<iframe>内でレンダリングされます。
– JavaScript制限: トップレベルのウィンドウやローカルストレージにアクセスしようとするJavaScriptコードは失敗します。
– 認証ヘッダーの制限: サンドボックス化された<iframe>内では認証ヘッダー(例: Basic認証)が利用できません。代替手段として、HTML内に短期間有効なアクセストークンを埋め込むなどのアプローチが必要です。
– 相対URLの無効化: <form action="/">のような相対URLは機能しません。代わりに絶対URLを使用する必要があります。
※ iframe(インラインフレーム)とは: HTMLドキュメント内に別のHTMLドキュメントを埋め込むための要素です。セキュリティサンドボックスとして機能させることが可能で、埋め込まれたコンテンツが親ページに影響を与えることを防ぎます。
活用例・メリット:
– セキュリティリスクの低減: 外部から取得したHTMLコンテンツを安全に表示できます。
– インスタンスユーザーの保護: 悪意のあるスクリプトがn8n環境に影響を与えるのを防ぎ、ユーザーの安全を確保します。
4. AI評価のための組み込みメトリクス
概要: AIソリューションの信頼性と予測可能性を確保するために不可欠な「評価」を容易にするため、n8nに一連の組み込みメトリクスが導入されました。これにより、AI応答の品質を客観的に測定し、改善サイクルを回すことが可能になります。
初心者向け説明: AIがどれだけ正確な答えを出しているか、どれだけ役に立つ情報を与えているか、といったAIの「成績」を簡単に測れるようになりました。これにより、AIをより賢く、より信頼できるものに育てることができます。
技術的詳細: 評価は、Evaluationノードをトリガーとし、Set Metricsノードで「Set Metrics」操作を選択することで設定します。評価には、テストしたい入力を含むデータセットが必要です。一部の評価では、比較対象となる期待される出力(グラウンドトゥルース)もデータセットに含める必要があります。
利用可能な組み込みメトリクス:
– Correctness (AI-based): AIワークフローが生成した応答を期待される回答と比較します。別のLLMが「審査員」となり、プロンプトで提供されたガイダンスに基づいて応答を採点します。
– Helpfulness (AI-based): ユーザーのクエリに対して応答がどれだけ役立つかを、LLMとプロンプト定義の採点基準を使用して評価します。
– String Similarity: 応答が期待される出力とどれだけ一致するかを文字列比較で測定します。コマンド生成や特定の構造に従う必要がある出力に有用です。
– Categorization: 応答が期待されるラベル(例: 正しいカテゴリへの割り当て)と一致するかどうかを確認します。
– Tools Used: AIエージェントがデータセットで指定されたツールを呼び出したかどうかを検証します。エージェントで「Return Intermediate Steps」をオンにする必要があります。
※ グラウンドトゥルース(Ground Truth)とは: AIモデルの出力と比較するための、検証済みの正確なデータや期待される正解のことです。
活用例・メリット:
– AIモデルの選定: 異なるAIモデル間で評価結果を比較し、最適なモデルを選択する際のデータ駆動型意思決定を支援します。
– プロンプトエンジニアリングの改善: プロンプト変更前後の評価を実行し、変更の効果を客観的に測定します。
– AIワークフローの継続的な品質監視: 定期的な評価により、AIワークフローのパフォーマンスを長期的に監視し、品質の維持・向上を図ります。
graph TD
A[データセット入力] --> B[AIワークフロー実行]
B --> C[AI応答生成]
C --> D[Set Metricsノード]
D --> E[評価結果出力]
5. AI Agent Toolノードによるマルチエージェント連携の簡素化
概要: 複数のAI Agent Toolノードを主要なAI Agentノードに接続することで、単一の実行と単一のキャンバス内でマルチエージェントオーケストレーションを構築できる、簡素化されたパターンが導入されました。これにより、複雑なAIシステムをより直感的に設計・デバッグできるようになります。
初心者向け説明: これまで複数のAIを連携させるのは少し複雑でしたが、今回の新機能で、まるで「チームリーダーAI」が「専門家AI」たちに仕事を割り振るように、複数のAIを簡単に連携させられるようになりました。これにより、複雑なタスクもAIチームで効率的にこなせるようになります。
技術的詳細: この設定は、現実世界のチームのように機能する複雑なシステムを構築するのに特に役立ちます。リードエージェントがタスクの一部を専門エージェントに割り当てたり、複数の階層を持つエージェント構造を構築したりすることも可能です。また、長く複雑な指示を複数のエージェントに分割することで、プロンプト管理も容易になります。
🛠️ 設定方法:
1. ワークフローにAI Agentノードを追加し、「+」をクリックしてTools接続を作成します。
2. ノードパネルからAI Agent Toolノードを検索して選択します。
3. 主エージェントが参照できるようにノードに明確な名前を付け、短い説明とプロンプトを追加します。
4. そのエージェントが役割を果たすために必要なLLM、メモリ、ツールを接続します。
5. 主AI Agentに、AI Agent Toolを使用するタイミングと、関連するコンテキストをプロンプトで渡すよう指示します。
※ マルチエージェントオーケストレーションとは: 複数のAIエージェントが連携し、それぞれの役割分担に基づいて協調的に複雑なタスクを解決する仕組みです。
活用例・メリット:
– 複雑な顧客問い合わせ対応: 主エージェントが問い合わせを分析し、特定の専門エージェント(例: 技術サポート、請求担当)にタスクを委譲します。
– コンテンツ生成: 企画エージェントがコンテンツの概要を生成し、執筆エージェントに記事作成を指示、校正エージェントがレビューするといった多段階プロセスを構築できます。
– デバッグ効率の向上: 単一キャンバス内で全てのAIエージェントの連携を確認できるため、問題の特定と修正が迅速に行えます。
graph TD
A[主AI Agent] --> B[AI Agent Tool A]
A --> C[AI Agent Tool B]
B --> D[専門タスクA実行]
C --> E[専門タスクB実行]
影響と展望
今回のn8nのリリースは、自動化とAIの融合をさらに加速させるものです。AIチャットのユーザー体験向上から、AIソリューションの品質保証、そして複雑なAIシステムの構築まで、多岐にわたる機能強化が図られています。これにより、n8nはAIワークフロー構築における主要なツールとしての地位を確固たるものにするでしょう。
特に、組み込みのAI評価メトリクスとAI Agent Toolノードは、AI開発のベストプラクティスをn8nユーザーが容易に実践できる環境を提供します。これにより、企業はより信頼性が高く、予測可能なAI駆動型ソリューションを迅速に市場に投入できるようになります。今後は、さらに多様なAIモデルとの連携や、より高度な評価・最適化機能の追加が期待されます。
まとめ
今回のn8n最新バージョン(2025-07-14リリース)の主なポイントは以下の通りです。
- AIチャットのストリーミング配信: AI応答のリアルタイム表示でユーザー体験が大幅に向上しました。
- 管理者向けユーザーリストの改善: ユーザー管理がより詳細かつ効率的に行えるようになり、セキュリティと運用の両面でメリットがあります。
- HTMLレスポンスのiframe自動ラッピング: WebhookからのHTMLコンテンツを安全に表示するためのセキュリティ機構が導入されました。
- AI評価のための組み込みメトリクス: AIソリューションの品質を客観的に測定・改善するための評価指標が標準で提供されます。
- AI Agent Toolノードによるマルチエージェント連携: 複雑なAIシステムを単一キャンバス内で容易に構築・デバッグできるようになりました。
これらの機能強化により、n8nはAIを活用した自動化の可能性をさらに広げ、あらゆるユーザーにとって強力なツールとなるでしょう。詳細については、公式リリースノートをご確認ください。

