生成AIツールの進化は目覚ましく、その自動化基盤も日々アップデートされています。本日2024年6月20日、ローコード自動化プラットフォームのn8nが最新バージョンをリリースしました。今回のアップデートでは、AIエージェントの機能強化と、データフローにおける重要な変更が含まれており、自動化ワークフローの構築に新たな可能性をもたらします。特に、AIと連携した高度な自動化を目指すエンジニアにとって見逃せない内容です。
n8n 2024-06-20 リリース:主要な変更点

今回のリリースでは、バグ修正、機能強化、パフォーマンス改善に加え、新しいノードの追加と既存ノードの機能強化が行われました。中でも注目すべきは、「破壊的変更」と「新しいHTTPリクエストツール」の導入です。
1. 破壊的変更: データ取得関数の挙動変更
概要・初心者向け説明
n8nでノード間のデータを受け渡す際、「このノードから最後のデータを取り出す」「最初のデータを取り出す」「全てのデータを取り出す」といった指示を出すことがあります。これまでは、そのノードが持つ「最初の出力」からデータが選ばれていました。しかし、今回の変更で、実際に「次のノードに接続されている出力」からデータが選ばれるようになりました。これにより、より直感的で、意図した通りのデータが流れやすくなります。
技術的詳細
$(...).last()、$(...).first()、$(...).all() といったデータ取得関数が、引数なしで呼び出された際の挙動が変更されました。以前は、これらの関数は常にノードの「最初の出力(first output)」からアイテムを取得していました。しかし、今回のリリース以降は、これらの関数は「接続されている出力(output that connects two nodes)」からアイテムを取得するようになります。これは、複数の出力を持つノードにおいて、特に重要な変更となります。
※破壊的変更とは: ソフトウェアのアップデートにおいて、以前のバージョンで動作していた機能が、新しいバージョンでは異なる挙動をする、または動作しなくなる変更のこと。既存のワークフローに影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
具体的な活用例・メリット
例えば、あるノードが成功時の出力とエラー時の出力の2つを持っている場合を考えます。以前の挙動では、たとえエラー出力に次のノードを接続していても、$(...).last() は常に成功出力からデータを取得しようとしていました。しかし、新挙動では、エラー出力に接続していれば、そこからデータを取得するため、より正確なエラーハンドリングが可能になります。
この変更により、ワークフローの意図と実際のデータフローが一致しやすくなり、デバッグの手間が削減され、より堅牢な自動化システムを構築できるようになります。
Mermaid.jsダイアグラム: データ取得の挙動変化
graph TD
A[旧挙動: ノード]
B[最初の出力] --> C[$(...).last()]
D[接続出力]
E[新挙動: ノード]
F[最初の出力]
G[接続出力] --> H[$(...).last()]
比較表: データ取得関数の挙動
| 項目 | 旧挙動 (v2024-06-19以前) | 新挙動 (v2024-06-20以降) |
|---|---|---|
$(...).last() |
ノードの「最初の」出力から最後のアイテムを取得 | ノードの「接続されている」出力から最後のアイテムを取得 |
$(...).first() |
ノードの「最初の」出力から最初のアイテムを取得 | ノードの「接続されている」出力から最初のアイテムを取得 |
$(...).all() |
ノードの「最初の」出力から全てのアイテムを取得 | ノードの「接続されている」出力から全てのアイテムを取得 |
| 影響範囲 | 複数の出力を持つノードでのデータ取得 | 複数の出力を持つノードでのデータ取得 |
| 意図 | 接続先へのデータフローと一致しない可能性 | 接続先へのデータフローと一致し、より直感的 |
2. 新ノード: HTTP Request Tool for AI Agents
概要・初心者向け説明
今回のリリースで、AIエージェントが外部のウェブサイトやAPIから情報を収集するための新しいツール「HTTPリクエストツール」が追加されました。これにより、AIエージェントは、単に学習データに基づくだけでなく、リアルタイムの情報を取得して、より正確で最新の応答を生成できるようになります。例えば、「今日の株価を調べて」や「特定のニュースサイトから最新記事のタイトルを取得して」といった指示に、AIが自らウェブにアクセスして答えることが可能になります。
技術的詳細
HTTPリクエストツールは、n8nのAIエージェント機能と連携して動作します。AIエージェントが特定の情報を必要と判断した場合、このツールを呼び出してHTTPリクエスト(GET, POSTなど)を実行し、ウェブサイトのコンテンツやAPIのレスポンスを取得できます。これにより、AIエージェントは動的な情報源にアクセスし、その結果を自身の推論プロセスに組み込むことが可能になります。
※AIエージェントとは: 特定の目標を達成するために、自律的に思考し、ツールを使用し、行動を計画・実行できるAIプログラムのこと。n8nでは、様々なツール(ノード)をAIエージェントに提供することで、その能力を拡張できます。
具体的な活用例・メリット
- リアルタイム情報取得: AIエージェントが最新のニュース、天気、株価、商品情報などをウェブサイトやAPIから直接取得し、ユーザーの質問に答える。
- データ収集と分析: 特定のウェブサイトから定期的にデータを収集し、AIがその傾向を分析してレポートを作成する。
- 顧客サポートの高度化: 顧客からの問い合わせに対し、AIが社内データベースやFAQサイトを検索し、最適な回答を生成する。
このツールは、AIエージェントの「目と耳」となり、その情報収集能力を飛躍的に向上させます。これにより、AIエージェントはより現実世界と連携し、複雑なタスクをこなせるようになるでしょう。
Mermaid.jsダイアグラム: AIエージェントとHTTPリクエストツール
graph TD
A[AIエージェント] --> B[HTTPツール]
B --> C[Webサイト/API]
C --> D[情報取得]
D --> E[AI応答生成]
影響と展望
今回のn8nのリリースは、ローコード自動化とAIの融合をさらに加速させるものです。データ取得の挙動変更は、既存のワークフローの見直しを必要とする可能性がありますが、より直感的で堅牢なワークフロー構築を可能にします。特に、AIエージェント向けのHTTPリクエストツールは、AIの活用範囲を大きく広げる画期的な機能です。
今後、AIエージェントはn8nのような自動化プラットフォーム上で、より自律的に、より多様な情報源からデータを収集し、複雑なビジネスプロセスを自動化していくことが期待されます。これにより、企業の業務効率化はもちろん、新たなサービスやビジネスモデルの創出にも貢献するでしょう。n8nは、AI時代の自動化基盤として、その存在感を一層高めていくと予想されます。
まとめ
n8nの2024年6月20日リリースにおける主要なポイントは以下の通りです。
- データ取得関数の破壊的変更:
$(...).last(),first(),all()が接続されている出力からデータを取得するよう変更され、より直感的なデータフローを実現します。 - AIエージェント向けHTTPリクエストツールの追加: AIエージェントがウェブサイトやAPIからリアルタイム情報を取得できるようになり、AIの活用範囲が大幅に拡大します。
- ワークフローの堅牢性向上: 破壊的変更により、複数の出力を持つノードでのデータハンドリングがより正確になります。
- AIと自動化の融合加速: 新しいHTTPツールにより、AIエージェントが外部情報と連携し、より高度な自動化が可能になります。
- パフォーマンスと安定性の向上: バグ修正や機能強化により、全体的なユーザーエクスペリエンスが改善されています。
これらの変更は、n8nユーザーにとって、より強力で柔軟な自動化ワークフローを構築するための重要な一歩となるでしょう。公式リリースノートとHTTPリクエストツールの詳細については、以下のリンクを参照してください。
