2024年9月18日、ノーコード・ローコードのワークフロー自動化ツール「n8n」が最新バージョンをリリースしました。このアップデートは、システムの運用監視を強化する新機能や、日常的な業務自動化をより柔軟にする改善、そして最新のAIモデルへの対応など、多岐にわたる重要な変更を含んでいます。初心者の方から、日々の業務でn8nを活用しているエンジニアの方まで、誰もが自動化の可能性をさらに広げられる内容となっています。
主要な変更点

1. ワーカーメトリクス公開による運用監視の強化
概要・初心者向け説明:
n8nは、複雑な自動化ワークフローを効率的に実行するために、複数の「ワーカー」と呼ばれる処理担当者を動かすことができます。今回のアップデートにより、これらのワーカーがどれだけ忙しいか、どれだけスムーズに動いているかといった「健康状態」を数値として確認できるようになりました。これにより、システムが重くなったり、予期せぬエラーが発生したりする前に問題を発見し、対処することが可能になります。
技術的詳細:
これまで、n8nのメインインスタンスのメトリクス(※メトリクスとは: システムのパフォーマンスや状態を示す数値データのこと。CPU使用率、メモリ使用量、処理時間などが含まれる)は公開されていましたが、今回のリリースでワーカーインスタンスからも同様のメトリクスを公開・消費できるようになりました。これは、環境変数を通じて設定可能であり、分散環境におけるn8nの運用監視(オブザーバビリティ)を大幅に向上させます。Prometheusなどの監視ツールと連携することで、ワーカーごとの負荷状況やエラーレートをリアルタイムで把握し、スケーリングやトラブルシューティングに役立てることができます。
活用例・メリット:
* システム管理者: 複数のワーカーを運用している大規模なn8n環境で、特定のワーカーに負荷が集中していないか、処理が滞っていないかを監視し、リソース配分を最適化できます。
* 開発者: 新しいワークフローをデプロイした際に、ワーカーのパフォーマンスに与える影響を数値で確認し、ボトルネックを特定して改善できます。
* メリット: 安定稼働の向上、問題発生時の迅速な特定と解決、リソースの効率的な利用。
graph TD
A[n8nメイン] --> B[ワーカー1]
A --> C[ワーカー2]
B --> D[メトリクス公開]
C --> E[メトリクス公開]
D --> F[監視システム]
E --> F
2. フォームデータファイルアップロードサイズの上限カスタマイズ
概要・初心者向け説明:
n8nのウェブフック機能を使って、ウェブサイトのフォームからファイルをアップロードする際、これまではアップロードできるファイルのサイズに上限がありました。今回のアップデートで、その上限を自分で自由に設定できるようになりました。例えば、大きな画像ファイルや動画ファイルをフォームから受け取りたい場合に、この設定を変更することで対応できるようになります。
技術的詳細:
ウェブフックノードでフォームデータ(multipart/form-data)を受け取る際、アップロードされるファイルの最大サイズを環境変数 N8N_FORMDATA_FILE_SIZE_MAX でカスタマイズできるようになりました。デフォルト値は200MiB(※MiBとは: メガバイトのことで、データ量の単位。1MiBは約100万バイト)ですが、この変数を設定することで、より大きなファイル(例: 500MiBや1GB)のアップロードも許可できるようになります。これにより、n8nを介したファイル処理の柔軟性が向上します。
活用例・メリット:
* マーケティング担当者: 顧客からの大容量の資料やデザインファイルの提出をn8nのフォーム経由で受け付け、自動的にクラウドストレージに保存するワークフローを構築できます。
* 社内システム担当者: 社内での大容量データ(例: レポート、ログファイル)のアップロードと処理をn8nで自動化し、手動でのファイル転送の手間を削減できます。
* メリット: 大容量ファイル処理の柔軟性向上、業務効率化、ユーザーエクスペリエンスの改善。
3. ノード機能の強化:Invoice NinjaとOpenAI
概要・初心者向け説明:
今回のアップデートでは、特定のサービスと連携するための「ノード」も強化されました。特に、請求書管理ツールのInvoice Ninjaでは銀行取引に関する操作が追加され、AIツールのOpenAIノードでは最新のAIモデルが選択できるようになりました。これにより、これらのサービスを使った自動化がより高度に、より便利になります。
技術的詳細:
* Invoice Ninja: 銀行取引(Bank Transactions)に関するアクションが追加されました。これにより、n8nワークフロー内でInvoice Ninjaの銀行取引データを自動的に管理・操作できるようになり、経理業務の自動化範囲が広がります。
* OpenAI: モデル選択肢に「O1モデル」が追加されました。これはOpenAIが提供する最新の高性能モデル群を指す可能性があり、n8nを通じてこれらの最先端AIモデルをワークフローに組み込むことが可能になります。これにより、より高度なテキスト生成、要約、翻訳、分析などのAI処理をn8nで実現できます。
活用例・メリット:
* 経理担当者: Invoice Ninjaと連携し、銀行口座からの入金情報を自動的に取得し、未払いの請求書と照合して支払い状況を更新するワークフローを構築できます。
* コンテンツクリエイター/開発者: OpenAIのO1モデルを活用し、ウェブサイトのコンテンツ自動生成、顧客からの問い合わせに対するAI応答、大量のテキストデータからの情報抽出などをn8nワークフロー内で実行できます。
* メリット: 経理業務の効率化、最新AI技術の活用、より高度な自動化の実現。
ノード強化比較表
| 項目 | Before (旧バージョン) | After (2024-09-18 リリース) |
|---|---|---|
| Invoice Ninja | 基本的な請求書・顧客管理アクション | 銀行取引アクションが追加され、経理業務の自動化範囲が拡大 |
| OpenAI | 既存のモデル(例: GPT-3.5, GPT-4)の利用 | O1モデルが選択可能になり、最新AI機能へのアクセスが容易に |
影響と展望
今回のn8nのアップデートは、単なる機能追加に留まらず、分散システムにおける運用監視の強化、柔軟なファイル処理、そして最先端AI技術への対応という、現代のITシステムに求められる重要な要素をカバーしています。ワーカーメトリクスの公開は、大規模な自動化ワークフローを安定的に運用する上で不可欠な機能であり、企業におけるミッションクリティカルな業務へのn8nの適用範囲を広げるでしょう。また、ファイルアップロードサイズのカスタマイズは、多様なビジネスニーズに対応するための柔軟性を提供します。OpenAIの最新モデルへの対応は、AIと自動化の融合をさらに加速させ、よりインテリジェントなワークフローの構築を可能にします。今後、n8nはより複雑で高度なビジネスプロセス自動化の中核を担うツールとして、その存在感を増していくことが期待されます。
まとめ
今回のn8n 2024-09-18リリースにおける主要なポイントは以下の通りです。
* ワーカーメトリクスの公開: 分散環境でのn8n運用監視が大幅に強化され、安定稼働に貢献します。
* フォームデータファイルサイズの上限カスタマイズ: 大容量ファイルのアップロードが可能になり、ファイル処理の柔軟性が向上しました。
* Invoice Ninjaノードの強化: 銀行取引アクションが追加され、経理業務の自動化がさらに進みます。
* OpenAIノードの強化: 最新のO1モデルが選択可能になり、最先端AIをワークフローに組み込む道が開かれました。
* これらの変更により、n8nはより堅牢で、より柔軟、そしてよりインテリジェントな自動化プラットフォームへと進化を続けています。
公式リリースノートはこちら: https://docs.n8n.io/release-notes/
